社長コラム

優先席での出来事

2016.03.01

日差しが暖かいある秋の日の午後、私は駅のホームで電車を待っていた。
やがてやって来た電車のドアを開け(最近の青梅線はボタンを押さないとドアが開かない)車内に足を踏み入れる。席はほとんど埋まって、立っている人がぱらぱらいる程度の乗車率である。目の前に優先席がひとつ空いていた。

優先席の後ろにはイラストとともに「この席を必要としている人がいます」と書いてある。私はそういう意味ではこの席を必要としていないが、電車に乗ったら本を読むことを習慣としているので座れるとありがたい。必要としている人が乗ってきたらゆずるつもりで優先席に座った。

電車内で席をゆずられるかどうかは見かけで判断される。
私は今までゆずられたことはない。ということは見かけ上ゆずる必要のない存在なわけで、これは当然ではあるにしても嬉しいことである。ゆずる側に居るという自覚はおじさんの誇り、あるいは意地である。と言いながらいつかゆずられる側に移行する時はやってくる。最初は現実を受け入れられず煩悶し、そのうち抵抗が無意味であることを悟って甘んじて受け入れ、最後は当然の権利としてゆずられないと怒るようになるのだろうか。

さて、座って本を読んでいると、ある駅で初老の、おそらくアメリカ人であろう小柄な男性が乗ってきた。杖をついている。足が悪いようだ。こちらに近づいてくる。私は席をゆずるべく立ち上がろうとした。男性は手でそれを制し、顔をゆっくり左右に振ってその必要がないことを示した。無理に進めるものでもない。私は浮かせた腰をおろした。

問題はここからである。
男性は、私の隣でスマホを操作している若い女性の肩をポンポンとたたいた。肩をたたかれた女性は顔を上げると同時に状況を理解し「すいません」と言って席を立った。男性は「サンキュー」と言ってその席に座ると、私の方を向いてニコッとほほ笑んだ。

私は、座るんだったら私が席をゆずろうとした時に素直に座ればいいのにと思った。

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