社長コラム

靴の話

2018.11.16

宴の席で靴を間違えられることがあるが、あれは本当に迷惑である。私が被害にあった時は残っていた靴は小さくて履けず、履けても履かないが、仕方ないので店のサンダルを借りて帰った。スーツにサンダルで電車に乗るのはカッコ悪い。靴は帰ってこないし、サンダルは送り返さなければならないし、まったく最悪である。

「ということは、あなたはしてないんですな」、「そんなこと、する訳ないじゃないですか」、と言いたいところだが、宴席が終わって、最後に残っていた靴を自分の靴と思って履いて帰ったら人の靴だった、ことはある。「やっぱりしているんですね」。「いや、そういう問題ではなく、意外としちまうんだってことを言いたいんです」。居酒屋で一人ずつ下駄箱に靴を入れるシステムのところがあるではないか。「自分がするはずがない、とまでは言い切れないですよ」、だって酔っぱらってるんだから。

ある秋の日、その日は東京国税局管内の鑑評会の表彰式だった。うちもめでたく入賞、表彰式に出席することになったが、その日は私が個人的に警察から表彰されることになっていた日でもあったので、私は警察の会場であるホールに行くことにし、国税局には長男の幹に行ってもらうことにした。
その日の朝、私はダークスーツに身を包み、靴箱から黒靴を取り出し履いて、家を出た。
沢井駅から電車に乗りしばらくして、足を組みかえたらば「あれっ靴が違う」。右足と左足と靴が違う。具体的にというと右は先が丸いが左は尖っている。やっちまった、がどちらも黒だから分からないかもしれない、が、わかったら笑われるに違いない、が、もはやどうしようもないのでそのまま会場に向かった。

会場に到着すると「リハーサルをします」という。舞台の上、止まる場所には床にテープが貼ってある。受賞者がひとりずつ名前を呼ばれ、席を立ってテープのところまで進み止まり、礼をし、賞状を受け取り自席に戻る一連の動作を行う。係の人の視線が足元に注がれているのを感じるが、係の人もまさか右と左と違う靴を履いている人間がそこに立っているとは思わないだろう。気が付いた様子はない。しめしめ、本番は足元を見る人などいないだろうからここを乗り切ればセーフ、そう思ったら気が楽になって思わず口元が緩んだ。

終了後はどこにも寄らずまっすぐ帰宅する。帰りの電車でも人に気づかれることなく、無事家に着いた。

玄関のドアを開け家の中に入ると黒い靴が脱ぎ捨てられている、右と左と違う靴が。「そうか、幹もやっちまったんだな」。フォーマルな靴を持っていなかった幹は私の靴箱から左右違う靴を取り、疑う事なく履き、国税局に行って、表彰状を授与されてきたのだ。
幹も途中で左右の靴が違うことに気づき、やばいと思いつつ知らぬ振りをしてスケジュールを消化してきたのだった。スリリングな一日を無事終え帰還した父と子は、お互いの幸運を神に感謝し乾杯した。

この事故は、靴箱にちんばに靴が入っていたことが原因である。間違えてくれた人がいるわけだが、人にやってもらってるからそういうことになる訳で、文句は言えない。それにしてもあらためて履くと片っぽはきつめで、片っぽはゆるい。履き心地がまったく違うのになんで気がつかなかったのか、しかも二人そろって。思い込み、なのだろうが不思議である。

これから忘年会シーズン、皆さんも気をつけましょう。

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